スペアリブ。

豚のスペアリブをかじる。
スペアリブ。つまりあばらの肉のことである。
肉を噛み、軟骨を砕き、骨に張り付いた膜を前歯で削ぎとる。
もしこれが人間だったら、と思うと少しぞっとする。少し。

今さらそんなナイーブなことを言っていたら、焼肉もステーキも牛丼も刺身も卵も、見かたによっては野菜や果物も、とても食べてはいられない。
命を食べなければ、人は生きられない。

しかしスペアリブという、骨と肉と筋がこれでもかと主張してくる部位を食すと、
あらためて命を食すという行為が眼前までせり出してきているかのような感覚を覚える。
このあばら骨と、僕のあばら骨の違いは何か。一体なにが、食す側と食される側を分かつ分岐点となったのか。


あばらを食べたら、日課の筋トレをする。
例えばこんなふうに毎日鍛えている僕の筋肉も、食べてしまえばそれで全部オシマイなのだ。なにかが不公平な感じがする。

悲惨な事故を目の当たりにしてしまった人は、肉が食べられなくなってしまったりするらしい。僕がそんな目に会っていないのは、いいことなのか悪いことなのか。考えても詮の無いことではある。