人は誰しも「考えないようにしていること」を心に抱えている。

 座禅のマネごとをする。たまにやると、心が軽くなる、ような気がする。あくまでも、気がする程度だけれど。

 人は誰しも、「考えないようにしていること」を、心に抱えている。

 「それ」について考えてしまうと、自分が自分でなくなってしまう。自分の現実認識に不和が生じてしまう。だから考えないようにして、無かったことにする。精神的な防衛本能によって、無意識に。

 本当は会いたくないんだけど、どうしても会わなければいけないので「自分はあの人に会いたいんだ!」と思い込む。本当は好きなんだけど、相手をしてくれないので「自分はあの人のことが嫌いなんだ」と思い込む。心には、そうやって嫌なことを抑圧する機能が備わっている。

 嫌なことを、無かったことにして、それで全てが丸く収まるかというと、そうはいかない。

 心の中の、見えないところに押し込んだ気持ちは、必ずなんらかの形で、心のどこかに悪影響を及ぼす。歪んだ柱を一本使っただけで、家全体が傾いてしまうように。

 というような議論は、ほとんど古典的な精神分析の受け売りなのだけれども。


 ときには、考えたくないことと向き合うことも必要だと思う。心を鎮めたり、無心になれるような状況を作り出すことで、そういうことをやりやすくなる、ような気がする。あくまでも、仮定の話。

 向き合ったからといって、嫌な現実が変わるわけではない。でも、抑圧が少ないほうが、心のエネルギーを無駄に消耗しなくて済む。ぐっすり眠れるようになる、かもしれない。あくまでも、仮定。