歌うときの発声の難しさについて

 どうすれば歌をうまく歌えるか、思い通りの声を出せるか、ということを個人的に研究している。

 研究。便利な言葉である。実際のところ、単なるひまつぶし、と言ったほうが正確だ。

 そんな感じで、発声の難しさをひしひしと感じる今日このごろである。

 発声に関して言えば、「ココをこうすれば絶対イイ声が出る!」という方法は存在しない、と言っていいと思う。

 もちろん、ある程度のセオリーは存在する。脱力だとか、喉を開くだとか、腹式呼吸だとか。

 しかし例えば腹式呼吸ひとつとっても、人によって様々なやり方がある。というか、体の動かし方という、アナログな、線形的な、分割不可能なものを、「やり方」として完全に定型化しきることは不可能だ。

 んー、もっとわかりやすい言い方が出来ないだろうか。

 例えば料理には、レシピ、というものがあり、そこには野菜の切り方や加熱時間などなどが事細かに記されている。

 しかしレシピに書かれているのは「ニンジンをイチョウ切り」とか「塩を少々」とか「煮立ったらグライシンガーの素を入れる」とか、結構曖昧だ。ちなみに料理もしくはプロ野球に詳しくない人のために説明しておくと、グライシンガーとは現在プロ野球チーム「千葉ロッテマリーンズ」に所属の外国人投手である。独特の風味が効いたスパイスとかではない。くだらないことを言ってないで話を戻そう。
 
 要するに料理は、食材、調理器具、気温、などと常に相談しながらやるものであり、その時々によって「ベスト」が違う。だから完全なマニュアル化は不可能なのだ。

 そしてその辺の事情は、発声という分野においても変わらないのである。その日の体調、天候、体の固まり具合、緩み具合によって、留意せねばならないことは変わってくる。そしてそういった基礎ができた上で、歌うフレーズの高低、出したい声質によって、発声法、というか歌い方を変える必要がある。

 また、発声には、上手くいっている時ほど、なぜ上手くいっているのかがわからなくなりがちである、という問題がある。

 昨日は上手く出来たのに、今日はなぜか上手く出来なくて、色々試してみたら、実は体のこの部位に力が入っていた…なんてことが稀によくある。

 よく、スポーツで天才と呼ばれる人ほどスランプから脱出するのに時間がかかるのは「どうすれば上手くやれるか」を意識せずに上手くやれてしまうからだ、という話を聞く。これは天才でなくても同じだと思う。

 そういう「不調からの脱し方」というのも、やはりマニュアル化することは出来ない。せいぜい、「ここをこうするとこうなる」というケースを積み重ねるしかないのだろう。

 と、マジメに書いてきたが、こういうことを書くと「ふーん、で、オマエの歌ってどうなの?」と思う人が出てくる。絶対出てくる。コワイ。ヤメテ。被害妄想。