下を向いて歩くことについて。

 正しいウォーキングの姿勢は、顎を引いて、真っ直ぐ前を見ること、らしい。どのウォーキングの本にもそう書いてある。

 アシックス監修 ウォーキング・ダイエット (ぴあMOOK)

 確かに、エクササイズとか、ダイエットとかいう観点から見れば、それが正しいのかもしれない。

 けれども少し考えてみて欲しい。歩く、とはどういうことなのかを。

 歩くとは、地面を踏みしめて一歩一歩進むことだ。その時に最も見なければならないものはなにか。それは自分が踏みしめる地面の、デコボコや、固さや、傾き、なのではないだろうか。

 というか、人類は誕生以来、足元を見なければ歩けなかったはずであり、それが不要となったのは、地面がまっ平らに舗装されたアスファルトになって以降のことに過ぎないのではないだろうか。

 先日久しぶりに、とある山道を歩いたが、山道は、地面を見ながら、全身を使って登らねばならない。真っ直ぐ前を見て、なんてもってのほかである。

 平らなアスファルトは、人間から、足元を見て歩くという習慣を奪ってしまった。それは進化というよりは、退化と呼ぶほうがふさわしいと思う。

 同じように、イヤホンをつけながら歩くことができるのも、道路が安全になったからだ。サバンナで同じことをしたら即刻捕食されてしまうであろう。

 よくロボットみたいな姿勢でウォーキングしている人を見かけるが、そういう人体構造学的に正しいとされる姿勢で歩くよりも、地面の形を確かめ、一歩一歩適切な身体の動かし方を感じながら歩くほうが、ケガの防止や運動機能の向上につながるのではないだろうか。





 というようなことを、なんの変哲も無い道路を歩きながら思った。我ながら発想が年寄りじみている。人の顔を見られないので、普段から足元を見ながら歩いている。