フィクションの欠片。

 恋愛においては、「君が全てだ」なんてことを言う。もちろんそれは思い込みだ。実際は「全て」でもなんでもない。そもそも誰かひとりのことだけを考えて生き続けるなんて、できっこない。

 しかし、その思い込みの中では、中だけでなら、その言葉は真実になりうる。フィクションの中では、人が空を飛ぶことも炎を吐くことも真実になりうる。それと同じことだ。

 頭の中が、誰かへの思いでいっぱいになる。その時間と強度が大きいほど、「君が全て」の真実度は増していく。フィクションの中で。

 そしてそれが破裂したとき。いったいなにが起こるだろう。

 バラバラになったフィクションの欠片だけが残るのかもしれない。フィクションの欠片で血管を傷つけて、出血多量で死んでしまうかもしれない。もちろんそれもまた、フィクションの中の死、にすぎないけれど。

 でも、たとえフィクションの中であっても、死はやはり致命的なものだ。本来ならあべこべだが、この場合はこれが正しい。死は、致命的なものだ。

 死んでしまうのを防ぐためには、欠片を拾い集めなければならないのだろう。慎重に。かつ丁寧に。

 自分でもなにを言っているのかさっぱりわからないけど、多分それもこれも全部フィクションのせいなのだ。きっと。