くれたもののことを。

 花火大会に向かう人の流れに逆らいながら、ひたすらてくてくと歩いた。てくてくてくてく。 

 ふと気づいた。貰ったものの方が、ずっと多いじゃないか。どうして悪かったときのことばかり考えるのか、と。

 人間は、長期的な視点で損得を勘定することができない、と伊藤計劃の小説に書いてあった。損得だけでなく、喜びと苦しみについても同じことが言えるのかもしれない。

 傷ついた瞬間は傷のことしか考えられなくなる。それはしかたない。

 でも冷静になって考えれば、客観的に見れば、わかることじゃないか。そんなの気にならないくらい、いっぱいいろんなものを貰ってきたって。

 僕は冷静じゃなかった。許せなかった。許す? もともと僕に、許さない権利なんて無かった。でも心情として、許せていなかった。

 くれたもののことを思えばよかったんだ。でも。いまさら気づいたって遅いだろうか。いまさら許せても遅すぎるだろうか。