突然だが、今年の8月ごろに我が家にやってきた猫はもういなくなってしまった。その理由はあえて書かないことにする。
今まで当たり前のようにそこにいたものがいなくなってしまうのは、とてもとてもさびしくせつない。
もう服や布団を汚されることもないし、夜中に突然お腹の上に乗られてびっくりすることもない。もう二度と。
それはことばでは言い表せない悲しみだ。そんなことはわかってた。
でも実際にやってくる悲しみは、想像上のものとは違う。いわば質量と体積を持った悲しみだった。
可愛げのない雄猫だった。おっさんみたいなヤツだった。じゃれたり遊んだりすることは知らないようだった。
それでも、餌や暖を求めてやってくる彼を見ると、守ってやらなきゃいけないと思えた。
そして彼はもういない。その事実は、決して揺らぐことはない。
せめて彼が、ここではないどこかで、いつまでもいつまでも、ごはんを食べたり、眠ったり、いろいろなものの匂いをかいだり、雌猫を追いかけ回したり、そんな風に自由闊達に暮らしていけることを、願いたいと思う。祈りたいと思う。
そしていつかどこかでまた彼に出会えたら、ありがとう、と言いたい。その日まで、少しでもまっとうに生きていきたい。