歌における「腹式呼吸」という表現の語弊

 こないだひとりカラオケをみっちり三時間やったところ、昔やっていた腹式呼吸の感覚をだいぶ思い出せた。

 そもそも「腹式呼吸」という表現は、初めて聞いた人にとって誤解を招きかねない言い方だと思う。

 一般的な日本人が「お腹ってどこにある?」と聞かれたら、まず間違いなくおヘソのあたりを指差すだろう。「腹踊り」で動かす部分、「腹太鼓」で叩く部分、「おなかポッコリ」と言う場合のポッコリしている部分である。「下腹」「脇腹」という言葉は、その位置を腹の中心と見立てているからこそ成り立つ言葉である。

 なので、何も知らない人がいきなり「お腹で呼吸しろ」と言われたら、おヘソのあたりを前後にペコペコと動かそうとしてしまうのではないだろうか。

 しかし、歌うときに本当に必要なのは「腹腔を広げて吸い、下腹で支えを作りながら声を出す」ということだと思う。

 この辺のことはあくまで体感であって、なぜそうなのかということを言葉で完全に説明することは今の自分には出来そうにないので、こうなのではないか、ということを書く。

 人体の構造についてはググって調べてもらうとして、人間の体は、腹腔を広げると、横隔膜が下がって、肺に空気が入ってくる、というように出来ている(らしい)。

 なので、歌うときは常に腹腔を広げるようすると、息を吐いた後、勝手にある程度の量の息が入ってくるので、息を吸うのがラクになるし、余計な力を入れずに済むので力を抜いて歌える。

 支えを作る、というのは、下腹部のあたりに力を入れながら声を出すことで、こうすると息が安定して、声が力強くなる。なぜ声が力強くなるのかはちょっとよくわからないけど、とにかくなる。

 で、ここまで書いてきて何が言いたいのかというと、歌における腹式呼吸というのは、腹腔を広げることが重要であり、腹腔を広げるためには、最初の方に書いた狭義の「腹」だけではなく、脇腹や、背中や、骨盤のあたりも動かしたほうがよいのではないか、ということ。少なくとも自分は昔そんな風に教わったし、そうしたほうが上手く歌える感じがある。

 Wikipedia英語版の、日本で言う腹式呼吸の項目のタイトルは「Diaphragmatic breathing(横隔膜呼吸)」となっている。日本語でも横隔膜呼吸という言葉を使ったほうがいいのではないかという気がするが、長くて言いづらいかなぁという気もする。

 ちなみに、脇腹や背中や広げるためには、「前ならえの先頭の人」みたいな感じで両方の手のひらで脇腹を抑え、その手を押し返すような感じでお腹に力を入れるとわかりやすいと思う。実際に歌うときはそんなに力を入れず、もっと自然な感じで広げる。